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宵闇
第13章 衝動

「……っ、それ、なんか……そう、勘違い? それだから……!」
あはは、と──何でもないことだと平常心を装いたくて無理矢理笑いを作ろうと試みるもぜんぜんだめだった。
顔が強張っているのが自分でもわかる。
そんな顔を見られたくなくて深くうつむいた。
……やだ。
こんなこと知られたら葉月くんに嫌われちゃうのに。
やだ……やだよ……!
ごめんなさい、と呟く。
何度も。
違うから。
勘違いだから。
だからごめんなさい。
変な気分にさせてごめんなさい────。
そんな気持ちが、私の感情をひどく乱していく。
「……気の迷いっていうか、なんかそういうのだから……。
だからすぐ忘れるし、村上くんから聞いたことなんて忘れて……お願いだから────……!」
もう自分でも何を言っているのかわからない。
滅茶苦茶な自分を自覚すると、一気に涙がこみあげてきた。
「……ほんと違うの……違うから……」
うつむいたまま願った。
「お願いだから私のこと嫌わないで……!」
それは私が踏み出せなかった大きな理由。
嫌われるぐらいなら──避けられるぐらいならこのまま黙っていた方がいいと、ずっとそう思ってきた。
葉月くんの存在のない日々なんて、耐えられない。
『もしかしたらそんなにたいしたことでもないかも』とあの日村上くんは私に言った。
そうかもしれないと思ったこともある。
でもこうして今、こんな状況に置かれた今、たいしたことがないわけないのだとあらためて感じてしまう────。
その私の声は葉月くんに届いたのかどうなのか──何も、答えはない。
私は本当に口に出したんだろうか。
実は心の中だけで叫んでいたんだろうか……わからなくなってくる。
でも、相変わらず掴まれている手。
身動きが取れないまま、私の乱れた呼吸だけが響く車内。
……息苦しい。とても。

