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宵闇
第13章 衝動

「──勘違いなの?」
これ以上はもう無理、そう思ったときだった。
葉月くんが、静かに言った。
「違うの? 気の迷いだからすぐに忘れるの?」
畳み掛けるような言葉は続く。
黙って下を向いたまま、それを聞いた。
だってちょっとでも動いたら……ちょっとでも何かを口にしたら、その拍子に目にたまっている涙が零れ落ちてしまいそうだったから。
必死で、それを堪えていたから。
「琴音ちゃん」
葉月くんの手が、私の手首を掴み直す。
「こっち向いて」
それでも私は動けない。
どくんどくんという心臓の音がとてもうるさい。
「違うって言うならちゃんと僕を見てそう言って」
たまらず首を振ると、とうとう涙が零れた。
どうして葉月くんは、そうかと流してくれないのか──どうしてそんなに執拗に私を追い詰めてくるのかわからない。
……もう、どうすればいいんだろう。
否定の言葉を口にしても、こんな取り乱した自分を見せてしまってる以上、肯定してるのと一緒だった。
きっと、葉月くんは私を拒絶するだろう。
僕たちは兄妹だから──と、現実を口にして私の気持ちをたしなめるだろう。
やがて発せられるであろう葉月くんのそういう言葉が怖い。
……助けて。
どうしたらいいのか、誰か教えて。
お願い……誰か助けて────!

