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宵闇
第13章 衝動

ぽん、と腕を軽く撫でられ、葉月くんが運転席に身体を戻し座り直した。
発した深く長い溜め息は、どこか……ほっとしたような、そんな色をしている。
そして『琴音のことをね』とそのまま唇が言葉を紡ぐ。
「琴音のことを女の子として意識し始めたのは高三のときだった」
前を向いたまま、まるで独り言のように。
「琴音が彼から告白されて──それで」
……彼、っていうのは村上くんだろう、とすぐに気づいたものの、そんなに昔から? と驚きを隠せない。
「最初は一緒に暮らしてるから……だから何て言うか……琴音のさっきの言葉じゃないけど勘違いしてるのかも、と思った。
……それで、離れた方がいいと思って大学は遠くに決めたんだ」
「だから急に進路────」
「そう。向こうで女の子ともつきあったけど……でもどうしても琴音のことが頭から離れなかった。忘れられなかった。
……勘違いなんかじゃなかったと、わかった」
葉月くんの表情が、少し苦しそうに歪んだ。
「僕のことは兄としてしか見られてないのはわかってた。
それでも琴音のそばにいたくて……だからこっちに戻ってきた」
「葉月くん……」
「僕も琴音と同じ。
……拒絶されるのが怖くて、どうしても想いを口にできなかった」
「……同じ……」
頷く葉月くんに、あんな思いを葉月くんもしてたのかと、胸が熱いような苦しいような……変な感じになる。

