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宵闇
第13章 衝動


「……忘れられそう?」


そして。
小さな呟きが。

でも答えようとする前に、すぐまた葉月くんは言った。
ごめん、と。
なんでもない、と。

私は顔を後ろに向けて葉月くんの方を見ようとした。
なのに、『だめ』と葉月くんが私の目を塞ぐ。


「今は顔見られたくない」

「え……」

「すごく嫉妬してるの……きっと出てるから」


……葉月くん────。


私は顔をそっと正面に戻した。
それに伴い、葉月くんの手も離される。


「……ごめんね、葉月くん」


無意識のうちに、そう言葉が出ていた。


「葉月くんにまでそんな思いさせて」

「琴音……」


また手へと戻された、手。
私はそれをきゅっと握った。


葉月くんとこうなった今──ちゃんと話さなくちゃいけないと思った。

それは今だからわかったこと。
今だから気づけたこと。

全部伝えたかった。葉月くんに聞いてほしかった。


「……高校のとき。
えっと……村上くんに最初に告白されたときだけどね」

「うん」

「葉月くんから、彼氏なんて焦って作っちゃだめだよ、って言われたのに……よく考えずに先輩と付き合っちゃったんだけど」

「……うん」

「今思うとなんだけどね──先輩って葉月くんに少し……似てた」


目を閉じて、あの雨の日のことを思い出す。


「最初に先輩を意識したのは……その声」

「……声?」


頷いて


「……琴音ちゃん、って呼ばれたんだ。
いつも葉月くんから呼ばれるみたいなかんじで。
……葉月くんと似た声で」


そう──あれがすべての。
先輩のことが気になった、すべての始まりだったと。

葉月くんへの気持ちになんてまだまったく気づいていなかったはずの私は、それでも無意識のうちに葉月くんを求めていたんだと。


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