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宵闇
第5章 紅
そのときだった。
「あれ? 琴音ちゃん?」
突然名前を呼ばれ、弾かれたように顔を上げるとそこに立っていたのは陸上部の三年生だった。
「……あ」
蓮先輩────。
「傘持ってねーの?」
「あ、はい……」
答えながらも、自分の心臓の動悸が激しくなっていることに私は気づいていた。
……だって正直驚いたから。
『琴音ちゃん』って── 一瞬、葉月くんに呼ばれたかと思った。
部活のときはそんなに思わなかったけど、先輩の声質、少し葉月くんに似ているんだ────。
そんなことを考えながら、傘をさして私を見ている先輩を、見つめ返す。
「じゃ、家まで送ってくよ~」
「え、でも────」
「いいからいいから。ほら!」
先輩に腕をつかまれて軽く引っ張られ、傘の中へと導かれる。
「雨、いつ止むかわかんねーし」
な? と私を下から覗きこんでくる。
「……ありがとうございます」
断る理由なんてない。
頭を下げ、お願いした。
「おー」
先輩が歩き始めたのに合わせて、横に並んだままついて行く。