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宵闇
第5章 紅

「……もうすぐ部活引退ですね」
「だなー。はえーよな!」
「寂しくなるね、ってみんな言ってます」
「はは! 反対にせいせいするんじゃねーの?」
「そんなことないですよ……!
みんな、先輩たちのこと大好きですもん」
その言葉に少しだけ訪れた沈黙を破ったのは、蓮先輩だった。
「……琴音ちゃんも?」
「え?」
思わず先輩を見ると、先輩も私を見ていた。
「琴音ちゃんも寂しくなんの?」
あらためて聞かれ、何だか少しだけそれまでとは変わったかのような空気を感じ、咄嗟に目をそらすように下を向いて答える。
「そんなの当たり前ですよ~」
笑いを混ぜた言葉はそんな空気を戻したかったからなのに──その拍子に、狭い傘の中で先輩と私の身体が軽くぶつかってしまった。
慌てて身体を少し引いた私の肩は、先輩に突然抱き寄せられる。
「ひゃ」
驚いて出てしまった変な声。
「そっち寄りすぎ。濡れるじゃん」
でも先輩は気にせず、普通の口調で、そうしたもっともな理由を口にした。
──その、声。
やっぱり似てる──あらためて思いながら頷く。
先輩はその後すぐに私の肩から手を離したけど、家に着くまで胸のどきどきはおさまらないままだった。

