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宵闇
第18章 動き出す
雪乃さんの同意を得た僕らは書斎へと移動した。
中に入り、奥へと進んだ父さんが椅子へと座る。
僕は後ろ手にドアを閉め、立ったまま、父さんを見た。
「……実は、琴音のことなんだ」
そう切り出した僕を父さんは黙ったまま見返して──やがて、ふっ……と軽く口元だけで笑った。
「……琴音、か。
いつからそんなふうに呼んでるんだ?」
……その言い方。
もしかしたら父さんは気づいているんだろうか。
緊張する。
けれど────。
「数ヶ月前。
……琴音と付き合い始めてからだよ」
一気にそれを打ち明けた僕を見るその表情は変わらない。
「……琴音が大学を卒業したら、一緒に暮らしたいと思ってる」
黙ったまま、僕を見ている。
「彼女と結婚したい」
──訪れた沈黙は、どれくらい続いたのか。
長いように思えたけれど、実際はそれほどでもなかったのかもしれない。
それでも、父さんが口を開くまでのあいだ……早鐘を打っている自分の心臓の音がやけにうるさく感じた。
「……おまえがあの子のことを好きだったのは前から知っていたよ」
「え……」
前から──って。
「志望校を変えたときあたりか。
……なんとなくだけどな」
「……そう」
そんなに前から知られていたのか──と、僕は目を伏せる。