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宵闇
第18章 動き出す
「……あの子が結婚相手を連れてきたら、私は一発殴ってやろうと楽しみにしてたんだよ」
父さんが、楽しそうに言う。
口元だけじゃなくて、目も笑っている。
「娘を持つ父としてやってみたかったというかね。
大事な娘をやるんだからその代わり一発殴らせろ、と」
大袈裟のようにも思える溜め息。
「……いいよ、僕を殴って」
ごくり、と唾を飲み込んで、僕はそれを覚悟した。
けれども父さんは笑っているのに困ってもいるような複雑な顔をしている。
「おまえが相手じゃ殴れないだろう……!
──大事な息子なんだから」
「っ……!」
ぐっ──と、一気に胸が熱くなる。
……父さん。
反対されても、なんてそんなふうに考えて、ごめん。
認めてもらえることがこんなに嬉しいなんて──思わなかった。
「ありがとう……」
素直に、口からそう零れ出た。
「その代わりあの子が泣いたら私は迷わずあの子の味方につくからな」
当然、と言わんばかりのその態度。
苦笑しながら
「わかってる。必ず大事にするよ」
そう、答えた。
その言葉に深く頷きながら、父さんが言う。
「どうする? 雪乃には私から言ってもいいが」
その申し出に感謝しながらも、首を振った。
「自分でちゃんと言うよ」
これは、自分でちゃんと言わなくちゃいけないことだ。
「そうか……ま、そうだな」
「うん」
「話が終わるまで私はここにいるよ」
頷き、じゃあ、と僕は書斎を後にした。