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宵闇
第18章 動き出す
「──葉月」
不意に呼ばれた名前。
はっとして声がした方へ視線を向けると、そこには父さんが立っていた。
「話は聞いたよ。
……雪乃は、少し考えさせてほしいと言って、今は書斎にいる」
「……うん」
思わず、ごめん、と口にする。
何がだ? と不思議そうに聞き返してきた父さんに
「雪乃さんを説得できなかった」
そう、ぽつりと返す。
でも父さんは僕の言葉に声をあげて笑った。
「簡単に説得できたら楽すぎて、おまえもつまらないだろう?」
そんなことを口にしながら。
「……雪乃もちゃんとわかっているさ。
ふたりの問題なんだから反対しても仕方ないってことをね。
──だからそんなに心配するな」
近づいてきて、僕の肩をぽんと叩く。
「とりあえず今日はこのまま帰りなさい」
「……ん」
「あとは雪乃からの連絡を待つしかない。
──な?」
確かに、今日はもう帰るしかないだろうと思った僕は、父さんの言葉に素直に頷いて、置いていた荷物を手にする。
「……雪乃さんによろしく言ってて」
「ああ」
じゃあ、とリビングを後にしようとした僕の背中にかけられたのは────。
「……めげるなよ、息子!」
思わず苦笑いしながら振り向く。
父さんのその言葉と表情────。
僕を信じ、僕たちを認めてくれているこの人のためにも、ちゃんと雪乃さんから許しを得てみせるとあらためてそう思いながら、家を出た。