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宵闇
第19章 枷
それでも、自分を落ち着かせるように何度か小さく頷いてから、静かに僕は口にした。
「何かあったように見えるとしたら──今日はほら、父さんたちとの話で緊張したりもしてたから。だからじゃないかな」
「……そっか」
琴音が、僕の両手に右手を伸ばしてくる。
だよね、と呟き
「お疲れさま」
そう続けて、そのまま僕の肩にそっと寄りかかってきた。
その可愛い仕草。
沸き上がってくる愛おしい気持ち。
彼女の頭に頬を寄せる。
「……葉月くん」
やがて、その体勢のままで琴音が話し始めた。
「ちゃんと言ってね」
「……え?」
思わず彼女の顔を覗き込む。
「何かあったら、ちゃんと私にも言って?」
「琴音……」
「ううん……何かなくても、話してほしいな」
その、優しい声────。
なぜだろう。
急に胸が、苦しくなった。
彼女の手をつい強く握ってしまう。
「……ねえ、やっぱり何かあったんじゃない?」
そんな僕の様子に、琴音が再度同じ問いを繰り返した。
「お父さんたちのことももちろんあったかもしれないけど──本当に他にはないの?」
ぎゅっ……と、彼女からも強く握り返されて。
その手の柔らかさと温かさ、そして力強さに少しだけ気持ちが緩んでしまった僕はつい、こぼしてしまった。
これは自分の問題だから、と。
そう。琴音がどうこうというわけじゃない。
あくまでも自分の問題だ。自分の心だけの。