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宵闇
第20章 条件

「……うん。近いうちちゃんと帰るね」
素直に謝ってから、コーヒーをいれるためにキッチンに立つ。
ママは、その間、ずっと黙っていた。
私も黙ったまま、コーヒーをいれる。
「はい」
できたそれをママに出し、私も自分の分を持ってママの向かいに座る。
「ありがと」
ママがコーヒーをひとくち飲んで、おいしい、とこぼす。
私も飲んで、うん、と同意した。
そのまま、私たちは無言のままで。
──不意にママが口を開いたのは、コーヒーがカップの半分ぐらいまで減ったときだった。
「……琴音、葉月くんと付き合ってたのね」
──きた。
一気に高まった緊張。
ごくりと唾液を飲み込み、私は椅子に座り直す。
「うん」
肯定しても、ママは私を見ずに手の中のマグカップを見つめたままでいる。
「葉月くんから『結婚を許してください』なんて突然言われて……ママびっくりしちゃった」
「……うん」
その口調──なんだか少し寂しそうな。
そんな印象を受けた私は思わず下を向く。
「ねえ、琴音は本当に葉月くんのことが好きなの?」
途端にそう聞かれ、また顔を上げた。
ママも私を見ていた。
目が、合う。

