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宵闇
第20章 条件

「……そんな琴音見るのは初めてね」
不意にママが、ぽつりと呟いた。
「ママ……」
──そのとき、携帯の着信音が鳴った。
私のじゃない。ママの携帯からみたいだ。
「はい」
電話に出たママは、黙っている。
その間に私は自分の涙を拭って、そっと深呼吸をして気持ちを落ち着かせようと試みた。
「──そうなの? わかったわ」
やがてママはそれだけ返して、すぐに電話を切った。
「琴音」
そして、私の名を呼ぶ。
「葉月くん近くにいるんでしょう?
──ここに呼んでくれる?」
「え?」
なんで知ってるんだろう──そう思ったけど、うん、と頷いて、私は葉月くんに電話をかけた。
『琴音?』
葉月くんがすぐに出る。
『大丈夫? 話できてる?』
その優しい声にまた少しこみ上げるものがあったけど、なんとかそれを押しとどめて伝えた。
「ん……あのね、ママが葉月くんに来てほしいって言ってるの」
『……わかった。すぐに行くよ』
その言葉と同時に通話が切られる。
「葉月くん、すぐに来るって」
「そう。あ、じゃあコーヒーおかわりもらえる?」
「あ、うん……」
さっきの私の話はちゃんとママに伝わったんだろうか──わからなかったけど、とりあえずママにコーヒーのお代わりを準備することにした。

