この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
宵闇
第20章 条件

「あ」
突然、声を上げたママ。
「葉月くん!」
「え? あ、はい……!」
名前を呼ばれた葉月くんが、慌てて返事をする。
「琴音と結婚するなら、ひとつ条件があるわ」
「ママ!?」
いきなり何を言い出すつもり……!?
「……はい」
それでも、葉月くんは真面目な顔になってママを見る。
ママも、真剣な顔をした。
条件って──と、ママが再び口を開くのを待つあいだの、緊張。
私の心臓がどきどきと早鐘を打ち始める。
そして、ためにためてようやくママが口にした言葉────。
「……琴音と結婚したら、私のことをたまには『お母さん』って呼んでくれるかしら?」
「え……」
思わず葉月くんを見ると、黙ったままずっとママを見ている。
その視線を受け止めながら、ママは続きを口にした。
「私はこれからも、葉月くんの中の『琴音のお母さん』の立場でいいの」
「雪乃さん……」
「でも琴音と結婚したら、義理だけど葉月くんと私は親子になるわ。
今だってそうだけど、今とはまた違う関係になる。そうでしょう?」
葉月くんが、その言葉を噛み締めるように、二、三度頷く。
それから、はい、と笑った。
「だから、たまにはそう呼んでくれる?」
「……はい」
「ん。条件はそれだけよ」
ふふっ、とママも私とお父さんを交互に見て笑う。
「葉月くんにとっては難しい条件かしら?」
からかうように口にするその顔は、本当に楽しそうだ。
「そんなことないです────」
少し照れくさそうに返す葉月くん。
ママも、お父さんも、私も──みんな、笑顔だった。
ふんわりとした雰囲気が部屋中に満ちている。

