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宵闇
第20章 条件


「あ」


突然、声を上げたママ。


「葉月くん!」

「え? あ、はい……!」


名前を呼ばれた葉月くんが、慌てて返事をする。


「琴音と結婚するなら、ひとつ条件があるわ」

「ママ!?」


いきなり何を言い出すつもり……!?


「……はい」


それでも、葉月くんは真面目な顔になってママを見る。
ママも、真剣な顔をした。


条件って──と、ママが再び口を開くのを待つあいだの、緊張。
私の心臓がどきどきと早鐘を打ち始める。


そして、ためにためてようやくママが口にした言葉────。


「……琴音と結婚したら、私のことをたまには『お母さん』って呼んでくれるかしら?」

「え……」


思わず葉月くんを見ると、黙ったままずっとママを見ている。
その視線を受け止めながら、ママは続きを口にした。


「私はこれからも、葉月くんの中の『琴音のお母さん』の立場でいいの」

「雪乃さん……」

「でも琴音と結婚したら、義理だけど葉月くんと私は親子になるわ。
今だってそうだけど、今とはまた違う関係になる。そうでしょう?」


葉月くんが、その言葉を噛み締めるように、二、三度頷く。
それから、はい、と笑った。


「だから、たまにはそう呼んでくれる?」

「……はい」

「ん。条件はそれだけよ」


ふふっ、とママも私とお父さんを交互に見て笑う。


「葉月くんにとっては難しい条件かしら?」


からかうように口にするその顔は、本当に楽しそうだ。


「そんなことないです────」


少し照れくさそうに返す葉月くん。
ママも、お父さんも、私も──みんな、笑顔だった。
ふんわりとした雰囲気が部屋中に満ちている。


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