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宵闇
第21章 月影
「あ」
そのとき、葉月くんが何かに気づいたように私の左手をとった。
「指輪……買わないとね」
「え?」
「婚約指輪」
慌てて首を振る。
「そんなのいいよっ……!」
「え? どうして?」
「だって一緒になれるだけで嬉しいもん」
葉月くんと一緒になれるっていうそれだけで、私はもう充分────。
「だめだよ。ちゃんと買おう?」
でも葉月くんは譲らない。
「僕のためでもあるから」
「……葉月くんのため?」
意味がわからなくて首を傾げると、私の薬指を触りながら続けて言う。
「琴音に寄ってくる男を、まずはそれで戦意喪失させたいなって」
「せ、戦意喪失!?」
突然のその言葉がおかしくて、吹き出してしまった。
「僕、真面目なんだけど?」
「だって葉月くん心配しすぎなんだもんっ」
「そうかなあ……」
笑いながら、そうだよ、と何度も頷く。
「私そんなにもてないってば~」
その言葉に、拗ねたような顔をして続ける。
「でも僕が一緒にいられないときとかやっぱり気になるからさ」
葉月くんは、この前からそういう言葉も普通に口にしてくれるようになった。
それが、私にはなんだかすごく新鮮で。
そういう彼をほとんど見たことがないから、嬉しくなる。