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宵闇
第21章 月影
手に取った、一房。
唇が寄せられて。
「……幸せだな、ってすごく思うよ……」
目を伏せながら、髪に口づけてくれた葉月くんの顔が、不意に少し苦しそうに歪んだ。
「葉月くん……」
「ずっと──ずっと思ってきたんだ」
はあっ、と吐かれた息。
「琴音とこうなりたいって何年も思ってたんだよ。
叶わないって思いながらも、心のどこかではずっと諦め切れなくて」
すっ……と、流されてきた視線。
私は射抜かれたように息を飲む。
そのまま動けなくなった。
「琴音への想いに気づいた日」
髪を解放したその指先が、私の頬に触れる。
「苦しくて、家を出ることを決めた日」
そのまま、すっ……と撫でられて。
「そばにいたくて、帰ることを決めた日」
それはまるで壊れ物にでも触るかのように優しく。
「琴音の身体に初めて触れた日」
……辿り着かれた唇。
「嬉しかったけど──でもそれからは正直もっと苦しくなった。
……いっそ触れなければよかったとまで思ったよ」
かたちを、なぞられる。
「苦しかった」
どうしようもなく苦しかった──と、つらそうに目を細めて、私を見つめながら、そうこぼす。
「だから今はあり得ないぐらいに幸せすぎて──本当はこれって夢なんじゃないのかな、って……今も時々思うんだ」
「葉月くん────」