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宵闇
第5章 紅
部屋に戻り、そっと中を伺う。
先輩は服を身につけた状態でベッドに腰かけていた。
私の姿を認めると、遅いから様子見に行こうかと思ってた、と言いながら立ち上がって近づいてくる。
思わず後ずさりかけたものの、そのまま抱きしめられた。
無意識に強ばってしまった身体──けれど先輩はそれに気づかない。
「好きだよ、琴音」
そして、そう口にした。
どこか甘ったるい、そんな言い方だった。
けれど今の私にはそんな言葉に嬉しさを感じることなんてできない。
もやもやとした気持ちだけが、ずっと渦巻いてる。
「……私、帰る」
静かに口にすると、送るよ、と先輩が答えた。
首を振って
「ひとりで帰れるから」
そう拒否し、先輩の腕から逃れて、鞄を手に足早に部屋を出た。
先輩が後ろで何か言ってたけど、無視して玄関を出て、自分の家へと逃げ帰るように駆け出した。
先輩が追いかけてきているかなんて見る余裕もなかった。
しばらく走ると、苦しさと共に私を襲ってきた身体の違和感。
下腹部も、指も、ずきずきと。
一気に私を襲ったそれらに思わず止めてしまった足。
──痛い。
それしか、考えられない。
まるで、頭の中で音がするかのようだった。
大きく息を吐く。
……じわり、とまたこみあげてくるもの。
──まだ。まだだめ。
自分にそう言い聞かせながら、再び歩き出す。
下を向いて、ただただ、家へと。
……先輩が追いかけてくることは、なかった。