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宵闇
第5章 紅


やっとの思いで家に着く。
ママもお父さんも仕事だから、誰もいない。
今の私にはそれがありがたかった。


二階の自室に向かう途中──思わず、葉月くんの部屋の前で足が止まった。
ドアを開け、中に目をやる。


誰もいない。
……いるわけが、ない。

そんなこと、わかってるのに────。


「っ……」


こみ上げてくる涙をもう止めることはできなかった。
駆け込むようにして自分の部屋に入り、ベッドに身を投げ出す。

我慢していた感情が一気に爆発した。
う……と、口から漏れてしまう呻き。
涙が止まらない。
あとからあとから溢れ出てくる。
何に対しての涙なのかそれすらももうよくわからなくなるほどに、身体以上に心が痛みを訴えていた。


「……っ、葉月くん……!」


たすけて。
私を、助けて────。


無意識のうちに、鞄から取り出した携帯。
しゃくりあげながら表示させた葉月くんの連絡先。
電話をかけようか、メールを打とうか、迷っているうちにふと我に返った。


……何を言うの?
彼氏に無理矢理されたって言うの?
そんなこと伝えてどうなるの?


葉月くんは優しいから、きっと私に優しくしてくれるだろう。


──でも。


「……無理……!」


ベッドの上に放り投げた携帯。
突っ伏すようにして、また、泣いた。


……言えない。
言えるわけない、葉月くんに。
彼氏は焦って作るようなものじゃない、って……そう私に言った葉月くんに、葉月くんがいなくなって早々に付き合った相手からこんなことされたなんて。

そうだよ……そんなこと、知られたくない────。


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