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宵闇
第6章 揺れる
「琴音……ほんとに俺のこと好きなの?」
そして突然の問い。
そんなことを聞かれるなんて思ってなくて、私は一瞬言葉に詰まってしまった。
ほらな、と私から視線を逸らした先輩が自嘲気味に笑う。
「好きだよ……!
好きだから付き合ってる!」
慌てて口にした言葉にも、先輩は態度を変えず
「ただ付き合うだけなら好きじゃなくてもできるじゃん」
そう言って私を突き放す。
「……なんでそんなこと言うの……」
先輩を責めた言葉は、いつのまにか私を責める言葉となって返ってきていた。
手をぎゅっと握りしめながら口にした反論にはなぜだろう力が入らない。
「昨日の琴音見てわかったんだよ。やっぱり俺のことほんとは好きじゃないなって。
……好きじゃない奴とやるなんて嫌に決まってるよな。そりゃ抵抗したくもなるだろ」
「違うよ! するのが嫌とかじゃなくて、ただ急だったから心の準備もできてなくて……っ、こわくて……だからそれで……っ!」
どうしてわからないの?
先輩に伝わらないの?
私が嫌だったのは、無理矢理だったからなのに。
私の気持ちを無視しないでほしかっただけなのに。
「そんなことだけで先輩のこと好きじゃないとかそんなふうに決めつけないでよ……!」
一気に口にして、はあっと大きく息を吐いた私に、先輩はゆっくりと視線を合わせてきた。
「……そんなこと?」
私の言葉を繰り返す。
聞いたことのないその低い声に感じたのは苛立ちのようなもの。
「そんなこと、って何だよその言い方。
俺たちって付き合ってんだろ? 好きならやりたいとか普通思うだろ。
それとも俺だけ? 琴音は思わねーの? 琴音にとっては『そんなこと』ってわけ?」
「……っ!
そういう意味で言ったんじゃない……!」
首を振って先輩の言葉を否定すると、その拍子に溜まっていた涙がまた零れた。