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宵闇
第8章 三年後
葉月くんは、2~3日は家に泊まってゆっくりして、それからアパートの方へ行くらしい。
夕食後、葉月くんの部屋のドアをノックする。
「どうぞ」
ドアを開けると
「琴音ちゃん」
葉月くんの、いつもの声。
ふふ、と口元が笑ってしまうのを自覚しながら部屋の中へ入る。
「何? なに笑ってるの?」
「だって……葉月くんだなーって思って!」
「ははっ、何それ……!」
笑顔の葉月くんに促されるままにベッドに座ると、葉月くんは椅子に座ったまま身体ごと私の方を向いた。
「琴音ちゃんはこの四年間いろいろあった?」
んー? と曖昧に答えると
「……あったみたいだね」
察した葉月くんがそう口にする。
「……あったね」
頭に浮かんだのはもちろん先輩のこと。
でも、メールのやりとりの中で葉月くんはそういうことについては聞いてこなかったから、私もあえて言わないでいた。
同じように私も、葉月くんのそういうことは知らない。
もちろん気にはなったけど、聞くと、私についても聞き返されちゃうんじゃないかと思ったし。
でも、たぶん私はきっと言うんだろうな──こうしてまた、面と向かって葉月くんと話していたら、そんな気がした。
「少しずつ教えるね」
「小出しなんだ?」
「そう!」
「面白いなあ、琴音ちゃんは」
そうかな、と首を傾げながら
「葉月くんもいろいろあったんでしょ?」
話をふる。
「んー、まあ……そう、だね」
苦笑いをしながらも肯定した葉月くん。
「じゃあ葉月くんも教えてね」
「わかった。小出しでね」
あはは! とふたりで笑いあう。
四年間の空白なんてまるでなかったみたいに葉月くんと話せる。
私は、それが何よりも嬉しかった。