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第9章 溶ける

「終わったときの話は間単にだけど前にもしたよね」


頷いて答えた葉月くんを視界の端にとらえる。
ん、と私はそのまま話を続けた。


「そう……先輩が他県の大学に進むことになって。
遠距離は無理って、会えないと続けてく自信ない、って言われて──それでおしまい」

「……琴音ちゃんは、別れたくないとかそういうことは何も言わなかったの？」

「あ、うん──そうだね、何も」


……だって。


「だって相手が別れたいならもうどうしようもないじゃない？」


苦笑しながらも、つとめて明るく言った。


そう……それに。


「それに先輩──なんかずっと私の気持ち疑ってたしね」

「……え？」

「別れるときも、ほんとはけっこういろいろ言われたんだよね。
『俺のことほんとに好きなの？』とか『線ひいてる』とか」

「琴音ちゃん……」

「最初なんてだから無理矢理だったもん」


え、と横にいる葉月くんが私の方に顔を向けたのがわかった。
わかったけど、それを言ってしまったことで私の感情はもう止まらなくなった。
なのに頭の中には、それ以上話すなって制止してる自分もいる。
なんだかよくわからない状態のまま、そんな自分を無視するかのように勝手に動き続ける口。


「でね、あとから『琴音がどこか見てるから不安だった』とか言うの。
私がどこにも行かないように無理矢理にでも自分のものにしたかったんだって」

「琴音ちゃん」


葉月くんが私の名を呼ぶ。
でも私は構わず続けた。


「だから、私が先輩のこと不安にさせてたのがいけなかったんだな、って思って謝ったら、先輩許してくれたんたけど、結局そのあともずっと同じように────」

「──琴音ちゃん！」