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宵闇
第9章 溶ける


今まで聞いたことのないような葉月くんの声。
話すことを遮られた私は、葉月くんの方に顔を向けた。


「……どうしたの? 葉月くん」


私を見ているその目はなんだかとても苦しそうで。


「なんで笑ってるの」

「え?」


私、笑ってた────?


……気づかなかった。
思わず触れた、自分の頬。


「なんで、そんなこと笑って言うの」


再び聞いてくる。
つらそうな表情と、声。それを変えもせずに。


「あ、だってもう終わったことだし────」

「……終わったこと?」


目を細めるようにして問うてくる葉月くん。
こんな真面目な顔、今まで見たことあっただろうか。


「琴音ちゃんの中ではまだ終わってないんじゃないの?
終わらせることができてないんじゃないの?」


そして、問いかけは続いた。
え? とその言葉の意味するであろう内容に心臓が波打つ。


図星をつかれたからだろうか──急に高ぶってきた感情。
こみあげてくる思いは、止められるようなものではなかった。


「……っ……なんでっ」
      

声が詰まる。


……何も知らないくせに。
あのときのことなんか葉月くん何も知らないくせに──なんでそういうことが言えるの?


「……葉月くんに何がわかるの」


だっていなかったじゃない。
葉月くん、いちばんいてほしかったときにそばにいてくれなかったじゃない。

なのにそんな、何でも知ってるみたいな言い方どうしてできるの────?


私の中でぐるぐると渦巻く、先輩に──そして葉月くんに対する感情。


「そういうの、誰かに話せた?」

「……話してないよ」

「話してないって──じゃあずっと自分の中だけで?」


──一気に爆発した。


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