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一夜の愛、人との愛
第9章 罪の尺度

明らかな狼狽の色が、言葉より雄弁に答えを語っている。
真理亜は無意識に拳を胸前に引きつけて、これまで聞いた言葉を思い出す。
―――半人前の天使が人間の女を抱いたら、女の魂に傷がつく
―――孕ませた半人前の天使は"穢れ"になる
ザレムは言っていた。
『半人前の天使は、人間を抱くこと、・・・正確には、人間を孕ませることを禁じられてる』と。
どちらでも同じような意味だろうと真理亜は軽く聞き流していたが、ここまでのクレイルとの会話、コーラルとの会話で、僅かに感じていた言葉の軋みの理由が、もしも自分の考えた通りだとすれば、合点がいく。天使は、意図して孕ませる力を持っていることになる。
抱くこと以上に、"望まぬ命を孕ませること"を極刑とする―――。
いかにも天使の国の掟に思える。
「あの人、言ってました。"半人前の天使の精を受けた女は、左の内腿に痣が出来る"って」
真理亜の声に、複雑な顔をしていた天使が一つ溜息をついた。
「そうですね。間違っていません」
「じゃあ・・・」
「そうです―――。私達は意図的に、人間の女性に子種を宿すことが出来ます。だからこそ、勝手に人間と交わることは禁じられ、それ以上に利己的に孕ませる行為は大罪とされています」
「・・・・・・」
「昨日、私は貴方の左脚を、見るつもりでした。それでも、その肌に触れた瞬間、私は…」
「あ・・・」
天使の苦い言葉に、真理亜が言葉を止めて唇を噛む。
さっと目元が赤らみ、昨日のことを思い出して、二人が一瞬の沈黙に包まれた。
「わ、私が、もしも孕まされていたとして…、その"浄化"で、全ては無くなるの?」
いたたまれない沈黙に抗うように、真理亜が口を開いた。
「無くなります。"浄化"しなければ、3日目の夜に、子供が生まれる」
真理亜が思わず自分のお腹を見つめてギョッとした。

