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一夜の愛、人との愛
第10章 透明な選択
冷たい視線が真理亜の足元に撫でるように移動して、彼女が思わず後ずさりかける。
「セルティエル様より、"浄化"の許可がおりず、人間界に戻すことが出来ぬ故、イエナリア様の御力をお借りできないかと申告いたしたく、連れて参りました」
クレイルが恭しく頭を下げながら告げる。
「"穢れ"が人間界に逃げた際、そこの女に受胎を施した恐れがあったため、コーラルが"穢れ"捕縛の折、その女をエデンへ導いた次第でございます」
イエナリアと呼ばれた男の視線が、再びに床の1点に戻り、真理亜は無意識に息を吐いた。
首筋を流れた汗が、シャツの中を通り、胸の谷間へ辿る不快な感覚があった。
「なるほど。セルティエルが許可しなかったか…」
まるで女にも聞こえる艶のある声だ。
確かに男の声のはずなのに、なまめかしく威厳に満ちて、その音は空間を支配している。
じっと見つめていると、その天使は静かに顔を上げて、真理亜と視線を合わせた。
穏やかに微笑んでいる。
「人間の女よ。我々の世界の諍い(いさかい)に、貴方を巻き込んで申し訳なかった。名前を、聞かせて頂けますか」
「真理亜、です」
目を離せないまま、半ば無意識に答えた彼女の声が、謁見の間に反響している。
天使は静かに頷いて彼女のスカートの辺りへ視線を降ろす。
左足の太腿の辺りを見つめてから、柔らかな笑みを零した。
「マリア。貴方の魂を"浄化"しましょう。全て忘れて、自分の世界に戻るが良い」
その言葉に、真理亜の隣に立っていたコーラルが1歩下がった。
イエナリアの右手が、緩やかなスピードで持ち上がり、ローブの衣擦れの音が微かに響く。
その美しい天使が指を持ち上げ、掌を真理亜に向けた。