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一夜の愛、人との愛
第11章 束の間の安寧

「貴方には伝えなくては。その体に、天使の子種はありません」
「……え」
「彼も気付いていながら伝えないとは、まだ人間への理解が足りていないようです」
ふわりと微笑んだ彼は、横の階段を降りて真理亜と同じ床まで降りてくると、彼女の目の前まで歩み寄った。
人間ならば190cmほどの長身だ。
見上げる真理亜に柔らかく笑いかけて、天使は左の太腿辺りを指さした。
「貴方の足には傷が無い。貴方の魂には傷がありますが、彼も最後の一線を超えるような無茶はしなかったということです」
先程までの威厳に満ちた冷たい態度と一転して、そう語るイエナリアの表情は穏やかだ。
真理亜は目が離せないまま、無意識に口を開く。
「あの、神格長様には、見えるんですか?」
その問いに、イエナリアは細い弓型の眉を軽く持ち上げて頷く。
「見えますよ。貴方の身体に何が起きたのか。人間の世界で何が起き、この建物に来てから何があったのかも」
「……」
思わず赤面する彼女の頬に右手を伸ばし、そっと包み込む。
「改めてお詫びをしなくてはなりませんね。我々の世界に巻き込んだことを」
触れた右手を滑らせて、真理亜の左の二の腕を持ち上げると、その腕を指先で辿り、彼は、その手を掲げた。
そして、真理亜の手の甲に優しく唇を押し当てる。
意外な人物からの意外な行動に、目を丸くする真理亜に、イエナリアは喉を震わせて笑った。
「私に免じて、勉強不足の若い天使達を許して頂ければ幸いです」
「は、はい…」
恐縮して頭を下げた真理亜に微笑むと、彼はローブを掴み、再び祭壇の上へと階段をあがる。
「あぁ、そうでした」
「?」
立ち去りかけた彼は、ふと思い出したように足を止めた。
顔を上げた彼女へ振り向いて、青い瞳を瞬かせる。
「今宵、安全な場所は―――」

