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一夜の愛、人との愛
第11章 束の間の安寧

泉の奥の扉から戻った真理亜を、コーラルが待っていた。

「大丈夫でしたか?」

労る声に、はにかむように微笑んで真理亜が頷く。

「私が、…その、子供を宿してないって…」

「あ、あぁ」

安堵混じりに告げた真理亜だが、コーラルの反応に、歩き出そうとした足が止まる。

「コーラルさん?」

「いや、その。良かった、ですね」

「まさか……、知ってたんですか?」

「いえ、そうでは、無く」

言葉を濁して眼鏡を持ち上げる彼に、真理亜の女の勘が働く。

「だって、知らなかった人の反応じゃないですよね、今の」

冷静に確認する彼女に、コーラルが困ったとばかりに眉尻を下げた。

「……その、兄が、先程…」





聞けば、真理亜が受胎していないことは、昨日の夜、クレイルが左足を目視して確認していたらしい。

彼自身も、真理亜に伝えようと考えていたそうだが、バルコニーで"人間の羞恥"に関する話を聞いてから、伝えるべきか分からなくなって、結局黙っていたそうだ。



「な、にそれ」

話を聞いて拍子抜けした真理亜が苦笑する。謁見の間で心の底から強く顔を上げたことが、彼女の中に溜まっていた、それまでの緊張を緩く溶かしていた。

「っふふふふ。天使って、不思議」

真理亜は小さく笑い声を上げてから、ふと、視線を感じて頭上を見上げた。

「!」

泉の上の吹き抜けの天井から、3人の天使が浮かびながらコチラを見下ろしている。

反射的に身を隠そうと視線を戻すと、泉の先、階段の方にいた天使も足を止めて真理亜を見ていた。

「あ、の…これって」

「あぁ。貴方の笑い声ですよ。我々は、……反応してしまうんです」

一瞬言葉を探って視線を彷徨わせたコーラルの横で、真理亜は両手を口に当てて、失態に顔を赤らめた。
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