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一夜の愛、人との愛
第11章 束の間の安寧
―――「天使は身体を洗わないの?」
その一言に、クレイルが彼女を抱き上げて飛んだ先は、建物から少し離れた小さな丘の裏手にある水辺だった。
水深1メートル程のそこは、水が澄み渡っているため底にある丸い小さな砂利の形もはっきり見える。
丘の突端が出っ張っていて、水辺の上に庇のように突き出しているため、その下で身体を洗えば建物から見えることは無い。
緑で覆われた帽子のつばのようなそこに座り込むクレイルに、真理亜は下から声をかける。
「覗かないでくださいね?」
「はい」
「あれですよ、学術的な興味とかでも、駄目ですよ?」
「分かりました」
クレイルの返事に笑いが混じる。
水に入る前に服を素早く脱ぐと、真理亜はつま先を、そっと水面につけてみた。
(あれ?)
冷たくない。
不思議に思いながら、そのまま中に入って見ると、水は柔らかいヴェールのように真理亜の身体を温かく包み、しっとりと触れた。
(水、じゃないのかな)
そっと掌ですくい上から落とすと、ポトンと綺麗な音を立てて水面に波紋が広がる。
(わ…)
楽しくなって、思わず小さく鼻歌を歌いながら身体を撫で洗う。
クレイルは、きっと上で苦笑しているに違いない。
それでも、初めての感触と身体を洗える喜びに機嫌を良くしている真理亜の耳に、不意に天使の声が響いた。
「こら! 待て!」
「え? 何で?」
(!?)
真理亜が何事かと胸元を隠して上を見上げた瞬間、それは転がり落ちて空中で制止した。
「あ」「あ」
「ちょ・・・!」
もつれながら落ちて来たのは、赤毛の天使とクレイルだった。