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一夜の愛、人との愛
第11章 束の間の安寧
思わず微笑んだ真理亜が一つ頷く。

「今度から、気をつけてくれるならね」

「分かった! 気をつける!」

「あ、こら、チェイス!」

クレイルの手から擦り抜けて、チェイスが素早く空中に翼を広げると、真理亜の周りを嬉しげに浮遊し始めた。

はっとしたクレイルが顔を上げるも、真理亜が彼に顔を向け、微笑んで首を振る。

彼女の、その笑みに、クレイルも難しい顔をしながら、剣幕を押さえた。

だが、チェイスは、そんな二人の様子を全く気にする気配も無く、暢気に空中で1回転してから、真理亜の横に浮かぶ。

「でもさ、マリアの声が、すげー綺麗だから! 来ちゃうんだよなー」

「声?」

どこか酔ったように、ふわふわとした調子のチェイスに、真理亜が優しく尋ねる。

「そうそう。クレイルだって、こーんな顔してるけど、おんなじこと考えてるよ? きっと」

"こーんな"という言葉で、自分の目元を外側に引っ張って見せながら、チェイスはご機嫌で言葉を紡ぐ。

「それに、マリアって、すごい、いい香りがする」

「っふふ。ありがと」

半人前、という単語のせいだろうか。まるで、少年のような言葉に、真理亜も気が緩んだ。

と、不意に、その赤毛の天使の唇が真理亜の右頬にふわりと触れた。

(!)

「ねえねえ、マリア」

思わず顔を赤らめて頬に手を当てた真理亜の顔を覗き込み、天使は無邪気に笑みを浮かべる。

「唇にキスしてもいい?」

「……ダ」

「だめだ!」

真理亜が"ダメ"と言うより早く、クレイルが素早く赤毛に手を伸ばす。

それを、ひょいと交わし、やや上空に逃げたチェイスが唇を尖らせる。

「えー、なんで? っていうか、なんでクレイルが答えるんだよ」

「お前は…」

背中の翼をばっと開いたクレイルの腕に右手をかけて、真理亜がチェイスを見上げる。


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