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一夜の愛、人との愛
第11章 束の間の安寧
「キスは、好きな人とするものだから」

子供のような彼に、ちゃんと伝えたくて、真理亜は目を逸らさずに赤毛の彼を見つめて告げる。

だが、チェイスは不思議そうに首を傾げた。

「なんで? 俺、マリアのこと、好きだよ?」

「そ、そういうことじゃ…」

「違うの?」

益々深まる謎にチェイスが、空中で胡座をかいて腕を組む。

どう伝えたらいいんだろう。

好きになって、恋を知って、愛を交わす、あの痺れるような口付けの心地よさを。

まだ年若い、少年のような彼に―――。

言葉に詰まった真理亜の指を、クレイルが優しく握って外す。

「その感情は、私にも、いささか複雑すぎます」

囁いたクレイルは、翼を大きく広げ直してからチェイスを見上げた。

「だから、我々には規律があるわけです」

真理亜に微笑んだ銀髪の天使に、赤毛の少年がハッとして胡座を緩めた。

「やべっ。またね、マリア!!」

クレイルが天に浮かんだ瞬間、チェイスが息を飲んで、素早い動きで直線を描くように建物へ戻り始めた。

そのスピードは素早く、瞬く間に自分達から距離を置いていく。

「全く…、逃げ足が早い」

忌々しげに隣に戻ったクレイルの声を聞きながら、真理亜は立ちすくんでいる。

黄色い空を飛んで行く背中を見つめながら、真理亜は、先程の問いの答えを、ぼんやりと探していた。

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