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一夜の愛、人との愛
第11章 束の間の安寧
* * *
空の青が色濃くはっきりし始める頃、真理亜はクレイルの部屋にいた。
ルシオを膝に乗せて、テラスのベンチに腰を降ろし、ぼんやりと雲の動きを眺めている。
思えば、社会に出てから、こんなに肩の力を抜いて、何もかも忘れて過ごすことは無かった。
仕事に追われたり、情報に翻弄されたり、時間に縛られたり、常に何かを考えて生活していた気がする。
膝の上の温もりを撫でて、空を見上げながら、キスの意味を考えるなんて、そんな少女のような時間は、随分昔に置き忘れてしまっていた。
「……好き、かぁ」
呟く真理亜の声に、目を閉じたままのルシオの耳がぴくっと動く。
複雑すぎる、というクレイルの言葉を思い出し、真理亜は困ったように視線を下げる。
「ルシオ」
声をかけると、膝の上の温もりは目を開けて真理亜を見上げた。
赤くつぶらな瞳は、彼女の言葉を理解しているように、じっと自分を見つめている。
「好きって、なんだろう。分かる?」
ぽつりと尋ねた言葉に、その柔らかい動物は、ただ「ミー」と高い声で返事をするだけだった。
真理亜が小さく溜息をつき、肩を落とす。
そんな彼女を勇気づけるように、その優しい掌に、顔を擦り付けてから、ルシオがぱっと扉へ顔を向けた。
釣られた真理亜が視線を向けると、クレイルが扉を押し開けて戻ってきたところだった。