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一夜の愛、人との愛
第11章 束の間の安寧
近づいてくる部屋の主の表情は、かなり暗い。
端正な顔立ちを歪めた姿に、真理亜が心配そうな顔をして、立ち上がろうとベンチの肘掛けに指をかけた。
彼女の動きに気付いたのか、膝の上のルシオが、素早く床に降り立つ。
が、足元に近づくルシオを無視し、さっさと足を進めたクレイルは、その勢いに立ち上がるタイミングを逃した真理亜の前で、素早く頭を下げて唇を開いた。
「マリアさん、申し訳ありません」
「え?」
「塔の部屋の使用許可が、降りませんでした」
「……」
首を傾げたままの彼女に顔をあげると、背中の翼を折りたたみながら、クレイルは片膝を曲げ腰を落とし、座ったままの真理亜に視線を合わせる。
「天使長であるセルティエル様も、貴方の事情は承知しているはずなのです。ですが、今宵、貴方を守れる部屋を使うことが許されないと言うのです」
端正な顔を苦々しく歪める彼に、真理亜は、部屋を出るまえのクレイルの話を思い出す。
『この建物の最上階にある"塔の部屋"であれば、夜の空気の影響を受けずに一晩過ごせるかもしれない』
最上階にある、小さな部屋。
それはエデン全体を見渡すことの出来る、主に有事の際に使われると言う、天使達の間でも半ば忘れ去られた空間だと、クレイルは言っていた。
その部屋であれば、建物のもつ夜の淫靡な空気の影響を限りなく最小限に出来るかもしれないから、と、クレイルは天使を統べる天使長という人物に直談判に行ってくれていたのだ。
申し訳無さそうに再び頭を下げるクレイルに、真理亜が思わず立ち上がり前に回る。
「あ、あの…、大丈夫ですから。その…、顔を、あげて?」
「しかし」
「とりあえず、そんな風に謝られたら、こっちが落ち着かないから。その…、座って、話しませんか」
真理亜の慌てた様子に、やっと気を使わせていることに気付いた銀髪の天使は、「あぁ」と呟きながら立ち上がり、彼女が座ったのを確認してからベンチの端に腰を降ろした。
端正な顔立ちを歪めた姿に、真理亜が心配そうな顔をして、立ち上がろうとベンチの肘掛けに指をかけた。
彼女の動きに気付いたのか、膝の上のルシオが、素早く床に降り立つ。
が、足元に近づくルシオを無視し、さっさと足を進めたクレイルは、その勢いに立ち上がるタイミングを逃した真理亜の前で、素早く頭を下げて唇を開いた。
「マリアさん、申し訳ありません」
「え?」
「塔の部屋の使用許可が、降りませんでした」
「……」
首を傾げたままの彼女に顔をあげると、背中の翼を折りたたみながら、クレイルは片膝を曲げ腰を落とし、座ったままの真理亜に視線を合わせる。
「天使長であるセルティエル様も、貴方の事情は承知しているはずなのです。ですが、今宵、貴方を守れる部屋を使うことが許されないと言うのです」
端正な顔を苦々しく歪める彼に、真理亜は、部屋を出るまえのクレイルの話を思い出す。
『この建物の最上階にある"塔の部屋"であれば、夜の空気の影響を受けずに一晩過ごせるかもしれない』
最上階にある、小さな部屋。
それはエデン全体を見渡すことの出来る、主に有事の際に使われると言う、天使達の間でも半ば忘れ去られた空間だと、クレイルは言っていた。
その部屋であれば、建物のもつ夜の淫靡な空気の影響を限りなく最小限に出来るかもしれないから、と、クレイルは天使を統べる天使長という人物に直談判に行ってくれていたのだ。
申し訳無さそうに再び頭を下げるクレイルに、真理亜が思わず立ち上がり前に回る。
「あ、あの…、大丈夫ですから。その…、顔を、あげて?」
「しかし」
「とりあえず、そんな風に謝られたら、こっちが落ち着かないから。その…、座って、話しませんか」
真理亜の慌てた様子に、やっと気を使わせていることに気付いた銀髪の天使は、「あぁ」と呟きながら立ち上がり、彼女が座ったのを確認してからベンチの端に腰を降ろした。