この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
一夜の愛、人との愛
第11章 束の間の安寧
隣に座っても浮かない顔のままのクレイルに、真理亜が困った顔で記憶を探る。
(言っちゃダメって言われたし…)
朝方、謁見の間で荘厳な空気を纏う天使に言われた言葉が、真理亜の脳裏をチラリとよぎった。
今夜、安全に過ごせるであろう場所。
けれど、それは、どの天使にも自ら伝えてはならないと、イエナリアに釘を刺されている。
(どうしよう)
気づかぬ内に溜息をついた真理亜に、クレイルが真剣な顔で空を見上げた。
「貴方を一人にすることは出来ません。けれど、ルシオに番を頼み、私が部屋を出て行くことは出来ます」
徐々に空の青色がくすみはじめているのを、クレイルは難しい顔で睨んでいる。
「クレイルさん?」
「一晩、私の部屋を貴方に貸す、というのは、どうでしょうか」
「でも、そうしたら、貴方は…」
「私は大丈夫です。弟の部屋にでも行けばいい」
涼しげに微笑んで自分を気遣う男に、真理亜が一瞬唇を噛んだ。
その頬に無意識に右手を伸ばし、クレイルが美しい瞳を細める。
いたわりの眼差しに、頬に触れられた真理亜が、その瞳を見つめ返す。
「それよりも、私が心配なのは、貴方の身体です」
クレイルの親指が、真理亜の噛み締められた唇をすっとなぞる。
はっとして一瞬顔を引いた彼女に、天使は何の未練もなく、その手を離すと、柔らかい溜息を零す。
「一人で、耐えられますか?」
「……」
クレイルの優しい思いが、嫌というほど伝わってくる。
今朝、このテラスで話したことを、既に学習した彼は、直接的な言葉は使わずに、真理亜を気遣っているのだ。
この建物が孕む、夜の魔力を思い出し、真理亜は真剣な顔で俯いた。
その膝に、不意にルシオが乗り上げ、下から赤いつぶらな瞳で、不思議そうに真理亜の顔を覗き込む。
(言っちゃダメって言われたし…)
朝方、謁見の間で荘厳な空気を纏う天使に言われた言葉が、真理亜の脳裏をチラリとよぎった。
今夜、安全に過ごせるであろう場所。
けれど、それは、どの天使にも自ら伝えてはならないと、イエナリアに釘を刺されている。
(どうしよう)
気づかぬ内に溜息をついた真理亜に、クレイルが真剣な顔で空を見上げた。
「貴方を一人にすることは出来ません。けれど、ルシオに番を頼み、私が部屋を出て行くことは出来ます」
徐々に空の青色がくすみはじめているのを、クレイルは難しい顔で睨んでいる。
「クレイルさん?」
「一晩、私の部屋を貴方に貸す、というのは、どうでしょうか」
「でも、そうしたら、貴方は…」
「私は大丈夫です。弟の部屋にでも行けばいい」
涼しげに微笑んで自分を気遣う男に、真理亜が一瞬唇を噛んだ。
その頬に無意識に右手を伸ばし、クレイルが美しい瞳を細める。
いたわりの眼差しに、頬に触れられた真理亜が、その瞳を見つめ返す。
「それよりも、私が心配なのは、貴方の身体です」
クレイルの親指が、真理亜の噛み締められた唇をすっとなぞる。
はっとして一瞬顔を引いた彼女に、天使は何の未練もなく、その手を離すと、柔らかい溜息を零す。
「一人で、耐えられますか?」
「……」
クレイルの優しい思いが、嫌というほど伝わってくる。
今朝、このテラスで話したことを、既に学習した彼は、直接的な言葉は使わずに、真理亜を気遣っているのだ。
この建物が孕む、夜の魔力を思い出し、真理亜は真剣な顔で俯いた。
その膝に、不意にルシオが乗り上げ、下から赤いつぶらな瞳で、不思議そうに真理亜の顔を覗き込む。