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一夜の愛、人との愛
第12章 穢れた天使は夢を見る
自分の罪に対して、少しの慈悲の欠片も見せず、弁明も聞かず、あの、細長い、色の感じられない瞳で判決を下した天使が、何を考えて、どんな試練を与えるのかは分からないが、どうせ、一度は追放と幽閉をくらった身だ。二度と、エデンに戻れることは無いだろう。
ザレムは首を軽く回して凝りを解してから、じっと耳を澄ました。
入り口の奥で、見張りとして立っているであろう天使の呼吸が僅かに聞こえる。
聴覚の鋭さは、自分の身体に流れる天使の血が鼓膜を鋭敏に高めていることも確かだが、このエデンの空気そのものが、他の大地に無い澄み渡った純度を保っているからだということも、彼は知っていた。
この地から追放されたら、今までとは全く違う生き方を選択せざるを得なくなる。
今更、一人前の天使になることなんて、考えたところで仕方ない。
(ただ―――)
ただ、何か、守らなくてはならない何かを、守れなくなるかもしれない。
追放され、エデンから閉めだされたら、果たすべき何かを果たせなくなるかもしれない。
その、理由の分からない恐怖心と強い焦燥感が、ザレムの眉を険しく歪ませる。
何を守るべきかも分からず、何故、守るべきなのかも分からないが、ただ、漠然と、失ってはならない何かがあるはずだ、と脳の奥から何かの警告が響く。
だから、逃げろと。
守るべきものを探しだせ、と。
身の内の、声なき声が、何度も胸の奥を叩いている。
思わず衝動的に逃げ出した、あの時は、これまで見守っていたはずの青い地球の夜空に逃げ込んでいた。
そして―――。
「……」
ぼんやり記憶にふけっていたザレムが、ふと思考を止めて、視線を入り口の右手に向けた。
暗がりに目を凝らし、壁で見えない地上への階段を、金色の瞳で注意深く、見据えた。
ザレムは首を軽く回して凝りを解してから、じっと耳を澄ました。
入り口の奥で、見張りとして立っているであろう天使の呼吸が僅かに聞こえる。
聴覚の鋭さは、自分の身体に流れる天使の血が鼓膜を鋭敏に高めていることも確かだが、このエデンの空気そのものが、他の大地に無い澄み渡った純度を保っているからだということも、彼は知っていた。
この地から追放されたら、今までとは全く違う生き方を選択せざるを得なくなる。
今更、一人前の天使になることなんて、考えたところで仕方ない。
(ただ―――)
ただ、何か、守らなくてはならない何かを、守れなくなるかもしれない。
追放され、エデンから閉めだされたら、果たすべき何かを果たせなくなるかもしれない。
その、理由の分からない恐怖心と強い焦燥感が、ザレムの眉を険しく歪ませる。
何を守るべきかも分からず、何故、守るべきなのかも分からないが、ただ、漠然と、失ってはならない何かがあるはずだ、と脳の奥から何かの警告が響く。
だから、逃げろと。
守るべきものを探しだせ、と。
身の内の、声なき声が、何度も胸の奥を叩いている。
思わず衝動的に逃げ出した、あの時は、これまで見守っていたはずの青い地球の夜空に逃げ込んでいた。
そして―――。
「……」
ぼんやり記憶にふけっていたザレムが、ふと思考を止めて、視線を入り口の右手に向けた。
暗がりに目を凝らし、壁で見えない地上への階段を、金色の瞳で注意深く、見据えた。