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一夜の愛、人との愛
第12章 穢れた天使は夢を見る
足音が微かに聞こえるが、翼の音は聞こえない。
それよりも、あの、匂いを感じる。

(女、か?)

また、何で、こんな時間に地下にやって来るのか。
この建物の特性は、一晩過ごせば嫌でも分かるはずなのに、こっちに来る理由が分からない。クレイルは何をやっているんだ。一晩くらい、安全な場所を確保するのが、一人前の天使の役目じゃないのか。

(……)

謁見の間での彼女の姿を思い出し、ますますザレムの顔が厳しくなる。

今夜はタイミングが悪い。
あのビジョンを見た後は、自分の意識がうまくコントロール出来なくなる。
もともと、自分は平和主義者では無いと思っていたが、気が立って牙を剥きたくなる。
しかも、鼻にまとわりつく、この匂いがやばい。
肉体の奥に直接作用する、まるで着火剤だ。

いよいよ足音が近づき、残り数段になった時、ザレムは目を閉じて俯いた。
唇を引き結び、意識を自分の内側へ向ける。
興味本位で様子を見に来ただけならば、さっさと戻っていくだろう。
この空間だって、エデンの夜の影響を受けるのだから―――。

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