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一夜の愛、人との愛
第12章 穢れた天使は夢を見る
* * *
部屋に一人に残されてから、真理亜は膝の上のルシオを撫でてソファで目を閉じていた。
暫く、そうしていたものの、ゆっくりと眠りの淵に落ちかけた彼女の身体を、不意に、その感覚が襲ったのは、空の色が一段と深く黒みがかった時だった。
はっとして目を開いた彼女の動きに、ルシオが素早く膝から降りる。
温かく柔らかなルシオの重みさえ、不思議な刺激になって真理亜の肌を揺らめかせた。
(どうしよう…)
昨日のように、知らぬ間に忍び寄ってくる熱とは違う。
明らかに、これから甘く絡んでくると知っている微熱だ。
一瞬ルシオを見れば、床に座り込んで真理亜を見上げ、赤い瞳を静かに瞬かせていた。
「ルシオ…」
縋るように名前を呼ぶが、珍しく、その白い生き物は返事をせずに数歩下がって伏せってしまう。目を閉じて身体を丸め、床の上で眠ろうとする、その姿は、彼女に触れることが得策では無いと知っているような態度だ。
「ルシオ。私、下に行っても、いい?」
不安げに尋ねた真理亜に、ルシオの耳がぴくりと動く。
そっと真理亜がソファから立ち上がると、顔だけ持ち上げて彼女の動きを赤い瞳で伺う。
「クレイルさんに、内緒にしてくれる?」
自分の体を庇うように両腕で包むと、真理亜はルシオの傍に歩み寄り、腰を落として頭を撫でた。
その掌に顔をすり寄せてから、白く優しい獣は、すくっと立ち上がると真理亜より先に部屋の扉に向かう。そして、ちょこんと座り込んだ。
愛らしい仕草に微笑みながらも、真理亜は扉に歩み出し、途端、眉を寄せる。
背中の、服の切れ目から、何かに撫でられているような、妙なむず痒さが走る。
深呼吸して、妙な感覚を誤魔化すと、そっと扉に歩み寄って、冷たい取っ手に手をかけた。
もう一度ルシオを見ると、戸惑いがちに唇を開く。
「この部屋……、よろしくね?」
少し考えてから、そう告げた真理亜に、ルシオは高い声で「ミー」と啼けば、扉を開けた真理亜に背を向けて部屋の中央に戻り、ソファに飛び乗って目を閉じた。
その様子を微笑んで数秒眺めてから、真理亜は不安げな表情でクレイルの部屋を後にしたのだった。