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一夜の愛、人との愛
第12章 穢れた天使は夢を見る
* * *
階段を降りながら、遠巻きに自分を眺めていた天使達の姿を思い出す。
目が合いそうになると、視線を逸らされ、まるで距離を置くかのように吹き抜けを上に上に飛んでいった天使達に、真理亜は少し心を痛めていた。
避けられているように、感じたのだ。
異国の不思議な建物に慣れきっていない彼女は、「甘美な匂いを放つ彼女を守るため、天使達が自ら近寄らないよう判断したのだ」ということに、考えが至らない。
溜息をついて、じわじわと熱を持つ身体を地下に運びながら、彼女はイエナリアの言葉を思い出していた。
―――今宵、安全な場所は地下牢です。
―――どの天使にも、このことは言ってはなりません。
―――但し、もしも貴方が地下に行くのなら、見張りには私からの言葉と伝えなさい。
(あの男がいる場所は…、落ち着かないけど)
それでも、一晩中、訳の分からない不思議な感覚に翻弄されるより、ずっとましなはずだ。
一段ずつ下に降りる度に、裸足の足裏が火照りかけた皮膚を冷やす。
地下の涼しい空気は、確かに身体の中に生まれた熱を緩和してくれている、そんな気がした。
最後の1段を踏みしめた時、ふと、松明越しの奥の部屋から、細身の美しい天使が姿を表した。
彼は明らかに狼狽した表情のまま、その場で立ちすくみ、真理亜を見ている。
流石に、勝手に地下牢に閉じこもって籠城することは失礼になるだろう。
動かずに自分を見つめる短髪の天使の傍へ、真理亜は静かに歩みを進めた。
「あの、……こんばんは」
真理亜の声に、天使の眉が小さく震える。
言葉を探し、返事が出来ずに当惑する天使に気付かないまま、真理亜は静かに頭を下げて唇を開いた。
「勝手に、降りてきてすみません。真理亜と、言います」
「…あぁ」
「あの……、今夜、私、ここに居たいんです」
真理亜の存在に戸惑っていた天使が、その申し出に小さく息を飲む。
狼狽しながら視線を逸らすと、難しい顔で床を見つめるも、その視線は真理亜の剥き出しの爪先に自然と吸い寄せられた。
白い指が視界に入り、意識を掴まれそうになって、はっと顔を上げた天使が、平静を装いながら唇を開く。
「それは…、何故ですか」