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一夜の愛、人との愛
第14章 求められる決断
真理亜の視線の先で、テラスからの風を受けたレースのカーテンが柔らかく揺れている。

空気を撫でる、その布の緩やかな動きを見つめながら、口元を覆っていた指先が、無意識に唇の合わせ目に触れると、痺れに似た感触が心地よく皮膚を震わせた。

熱い感覚を刷り込まれた身体が、昨夜のことを思い出そうとする真理亜の意識を揺らす。

途中から、ドロリと溶けている記憶は、形を失いかけたチョコレートのように、掴みきれないのに濃厚な粘りを伴って真理亜の意識を甘く覆ってくる。

「……はぁ」

空は明るく塗り替えられたはずなのに、背筋を走った感覚に、思わず息を吐くと、真理亜は目を閉じて軽く首を振った。

全て、この建物の孕む不思議な作用のせいなのだから。

服を脱いでしまったことも、男の言葉に逆らえずに唇を開いたことも、あの太い脚に自分の足を絡めようとしたことも。

(……だめ)

考えまいとする傍から脳裏にちらつく昨日の光景に、真理亜は毛布の上の足を動かし、寝具から床に降りる。

不意の揺れに目を開いたルシオが、真理亜の膝上からどけば、共に地上に下りると、彼女を置いてテラスの外へと歩いて行った。

「ルシオ?」

コーラルの声が聴こえ、直後、金髪の天使が部屋に入ると、ベッドの横に立っている真理亜に気付き、眼鏡の中の瞳を柔らかく緩める。

「少しは、休めましたか?」

優しい微笑みに、真理亜の乱れかけていた意識も、幾らか穏やかになる。

頷く真理亜に微笑む青年の背後に、銀髪の天使が姿を見せれば、二人の様子を静かに見てから、弟によく似た唇を開いた。

「外の風に当たりますか?」

「……はい」

誰かと話をしている方が、気は紛れるし、安心できる。

真理亜は美しい翼の男の問いかけに微笑んで頷くと、テラスのベンチへと足を進めた。

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