この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
一夜の愛、人との愛
第14章 求められる決断
顔は見えないのに、この天使は笑っている。
そうに違いないと感じて、真理亜が無意識に口を開く。
「あ……」
けれど、言葉が形になるよりも前に、祭壇の奥の扉が開き、はっとした彼女は口を閉じた。
ザレムも顔を上げないまま目を閉じる。
美しい白い翼を背負った天使が、昨日と同じ温度で静かに二人の前に現れると、気圧されるように真理亜は小さく頭を下げた。
その様子に、イエナリアは微笑む。
「マリア、顔を上げなさい」
名前を呼ばれ、恐る恐る顔を上げた彼女と一瞬視線を合わせてから、その睫毛を柔らかく伏せた天使は、涼しげな声を奏でる。
「二人共、昨夜は、よく休めましたか」
その問は、ザレムが真理亜にした質問とは、全く異なる意味に聞こえた。
まるで、二人の間に起きたことを知っているかのような、謎かけめいた声の調子に、真理亜が戸惑いがちにザレムの方をチラリと見やる。
黒い天使は動かずに固まっている。
「マリア」
「はい…ッ」
視線を逸らしたことを咎められたと感じ、真理亜が素早く視線をイエナリアに戻す。
だが彼は、真理亜とザレムの間の白亜の床の辺りを眺めたまま微笑んでいた。
「怖がらずに。…貴方は、貴方の思うままに選択しなさい」
「え」
「いいですね」
「は、……はい」
どこか優しさを含む声が、真理亜を包み込んでいる。
石造りの冷たく見える空間が、不意に温かく感じられて、真理亜は戸惑った。
だが、イエナリアは、それ以上、彼女と会話を交わすことなく、白く長いローブを引きずりながらザレムの正面に移動すると、その漆黒の髪と濡れたような翼を見据えた。
そうに違いないと感じて、真理亜が無意識に口を開く。
「あ……」
けれど、言葉が形になるよりも前に、祭壇の奥の扉が開き、はっとした彼女は口を閉じた。
ザレムも顔を上げないまま目を閉じる。
美しい白い翼を背負った天使が、昨日と同じ温度で静かに二人の前に現れると、気圧されるように真理亜は小さく頭を下げた。
その様子に、イエナリアは微笑む。
「マリア、顔を上げなさい」
名前を呼ばれ、恐る恐る顔を上げた彼女と一瞬視線を合わせてから、その睫毛を柔らかく伏せた天使は、涼しげな声を奏でる。
「二人共、昨夜は、よく休めましたか」
その問は、ザレムが真理亜にした質問とは、全く異なる意味に聞こえた。
まるで、二人の間に起きたことを知っているかのような、謎かけめいた声の調子に、真理亜が戸惑いがちにザレムの方をチラリと見やる。
黒い天使は動かずに固まっている。
「マリア」
「はい…ッ」
視線を逸らしたことを咎められたと感じ、真理亜が素早く視線をイエナリアに戻す。
だが彼は、真理亜とザレムの間の白亜の床の辺りを眺めたまま微笑んでいた。
「怖がらずに。…貴方は、貴方の思うままに選択しなさい」
「え」
「いいですね」
「は、……はい」
どこか優しさを含む声が、真理亜を包み込んでいる。
石造りの冷たく見える空間が、不意に温かく感じられて、真理亜は戸惑った。
だが、イエナリアは、それ以上、彼女と会話を交わすことなく、白く長いローブを引きずりながらザレムの正面に移動すると、その漆黒の髪と濡れたような翼を見据えた。