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一夜の愛、人との愛
第14章 求められる決断
じっと瞳を見つめ返し、引き下がる気配の無い真理亜に、ザレムが観念したように肩を落とす。

「裁きの森は、人間を喰らう。森そのものが意志を持ち、そこに生きる者達は、人間を宿主にして繁殖する。半人前の天使は、森に近づけば精神を犯され、人間はエネルギーを糧にされ実態を失う。エデンの天使とは相容れない、異形のものが住む禁域、それが俺達の知る、"裁きの森"だ」

「……」

「何を言おうと、お前を連れて行くことは出来ない」

頑として譲らない男は、ゆるりと視線を床に下げた。

光の加減で、その瞳が一瞬、黒みがかって見える。

その色を眺めながら、真理亜は胸の奥から湧き上がる奇妙な感覚に、返って冷静になっていた。

今、自分は、この環境に翻弄されながら、結局ここにいる。

エデンなんて知らなかった時に比べれば、格段に奇妙な状況に置かれている自分が、こうして順応できているのだ。

その森が危険であっても、試練ならば、乗り越えられるんじゃないか。

真理亜は、不思議と、根拠もなく、そう感じ始めていた。

イエナリアが試練と言う以上、成し遂げられない課題じゃないはずだ。

それに、一人で行くわけでは無い。

禁忌を侵してまで人間を救おうとした、この男が、共に行くならば、あるいは―――。

「分かった」

真理亜はポツリと呟くと、深呼吸してから立ち上がった。

「私、ここに残ります。その試練を受けます」

「……!」

祭壇へ向き直り、微笑んで告げた真理亜に、素早くザレムが顔を上げる。

だが、背後の気配に振り返ることなく、真理亜は一歩、前に足を踏み出した。

「おい、女!」

「私、その森へ行きます。私が行けば、きっと、この人は着いてくるから。……そうしたら、この人を殺さずに済む。そうでしょう?」

「何言ってる!」

ザレムが怒鳴り、身体を起こそうとして、首に衝撃を受ける。

真理亜には見えない首輪が、ザレムの首を拘束し、そこから伸びた鎖は彼の背後の床に楔で打ち付けられていた。

勢いを一瞬削がれたザレムの言葉の合間に、イエナリアの凪いだ声が割り入る。

「構わないのですか。貴方は、この世界の住人では無いのに」

「構いません」

淀みなく言い切った真理亜に、イエナリアだけではなく、ザレムさえも、一瞬言葉を失う。
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