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一夜の愛、人との愛
第14章 求められる決断
「穢れの口は閉じておくのが、やはり良いのでしょうか」

サラサラとした声が、真理亜の意識を緩く流れていく。

「それも全て、貴方の試練。そう受け止めて進むのも、貴方の贖罪になりえるのです」
「……っが、…ハッ!」

途端、喉奥に詰まっていた蓋を解き放たれ、思わずザレムが咳き込んだ。
背後の思わぬ変貌に、振り返った真理亜がザレムの姿を見やる。直後、彼女は驚きを込めてイエナリアを見上げた。
黒い天使は、乱れた息を整えようと呼吸を繰り返し、肩を上下に揺らしている。

「安心しなさい。人間の女よ」

不安混じりの真理亜の眼差しに、白い天使は余裕さえ感じる揺らがない笑みを返す。

「貴方が曲がりなりにも守ろうとした魂を、そう簡単に潰しはしません」

今は、と付け加えると、イエナリアは熱の篭もらない瞳で聖堂の奥を見据えた。
謁見の間の青白い炎が、ポツポツと背後から消えていく。

「話は終わりです」
「え…」
「後は、クレイルに任せましょう」

イエナリアが踵を返した瞬間、聞いていたかのように後方の扉が開き、薄暗くなる空間にクレイルが入ってきた。

複雑な表情の彼は、無言のままザレムの首に繋がっている楔を解放すると、真理亜に「行きましょう」と声をかける。

その、労りと悲しみを含む表情に、真理亜は一瞬心配そうに瞬いたが、一つ頷けば、二人の天使と共に、謁見の間を後にした―――。

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