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一夜の愛、人との愛
第16章 気配
(何が…)

何が、ザレムの神経を撫でたのか。
知りたいと思っているのに、空気がぶ厚く濃くなるごとに、真理亜の身体も重くなってくる。
身体にのしかかる重力が倍になり、地面からの引力も強くなっていくようだ。
気づかぬうちに呼吸が浅くなる真理亜に視線を戻し、ザレムが金色の瞳を細めて低く告げた。

「座れ」

その言葉が一際大きな重石になって、真理亜の身体をガクッと地面に押し付けた。
隣に腰を降ろしたザレムは、いつものように口を開いた。
反射的に、真理亜が右手を伸ばす。

「眠るより、……話したい」

白い指先にローブを掴まれて、ザレムが僅かに目を見張った。
女の指先は、力なく布を掴んだまま、気を抜けば滑り落ちてしまいそうに不規則に震えている。

森に入って6回目の闇だ。
ザレムには、この森に入ってからの道程が、はっきり記憶できている。
だが、生粋の人間である真理亜には、森の空気が淀む闇の時間は苦痛のはずだ。
自分の身体にさえ、奇妙な倦怠感が襲ってくるのだ。
闇が去っていく時、真理亜が苦しげに目を開く姿を何度か見ている。
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