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一夜の愛、人との愛
第16章 気配
初めて見る獣人の骨格の頑強さに、思わず真っ向勝負を想定してしまう。

(せめて女を連れて逃げ切れれば…)

無意識に、視線が真理亜の姿を捉える。
だが、その瞳の動きは、獣の黒く開いた瞳孔には筒抜けだ。

「よせよ。この森で獣人と競うなんて、阿呆のやることだ」
「そうか? やってみなけりゃ分からないだろ」
「はん」

レオパドルは黒髪を揺らしながら、顎を突き出し、小馬鹿にした声を上げた。

「負けん気が強いのは嫌いじゃねーけど、お前と遊ぶより、この女の身体で遊ぶ方が数段面白そうだし?」

黒い鉤爪が真理亜の項から襟首にかかると、白い布がグッと捩れる。
ザレムの顔色を伺ったまま、雪豹の手は一度力を緩めると、真理亜の襟ぐりから胸元へと忍び込み、内側から爪を立てた。
その手は、寝息で上下する胸に合わせ、静かに揺れている。

「よせ」

真理亜の肌を晒そうとするレオパドルの動きに、ザレムが知らず唇を噛み締めた。
獲物を弄ぶ猫のように、雪豹は、視線を合わせたまま、ザレムの精神を逆なでして遊んでいる。
この森では、彼こそが捕食者であり、ザレムもまた、雪豹の獲物の一つにしか過ぎないのだ。
その圧倒的な立場の違いに、ザレムの腹がふつふつと熱くなる。
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