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一夜の愛、人との愛
第17章 感知
無意識に後退ろうとして脚裏に力を込めた時、真理亜は自分の異変に気付いた。

―――なんてことだろう。

痺れて重みを増した身体は、何も身にまとっていない。

裸で横たえられていたのだ。

森の真ん中で。

湿った大地の上に。

「……」

思わず両手で身体を隠そうとすれば、隣に寝転がって寄り添っていた男が素早く身を起こし、真理亜の隣に片膝を立てて座り直した。

反対の足を前に投げ出して、真理亜の体側にピタリとつけると、大きな掌で剥き出しの腹を上からグッとおさえつけてくる。

胸元を庇って身体を捻ろうとした彼女の身体は、仰向けのまま腹部を貫かれた標本のように動けなくなってしまった。

反射的に足を閉じて茂みを守ろうとしても、太腿に温かい何かが絡みつき、阻止される。

視線では確認できなかったが、真理亜の脳裏に浮かんだ推測は当たっている。

(尻尾?)

雪豹の太く長い尾が、真理亜の右太腿に絡みつき、彼女の片足の自由も奪っていた。

「……」

無言のまま、自分の様子を観察する男を見上げると、真理亜は、その顔つきに息を飲む。

愉しそうでありながらも、優しさを欠片も感じない笑みは、真理亜の腹を抑える手に力が篭もる度に深まっているように見えた。

へそに食い込む男の黒い爪に、身体が痛みを訴える。

「や、めて…!」

白い肌に爪を立てられて感じるのは、痛みだけでは無い。

奇妙な恐怖に真理亜は思わず叫び混じりに懇願した。

「……」

意外にも男は、素直に手を離した。

肉球の見える、白い毛皮に包まれた、大きな掌を真理亜に見えるように空中でひらひらと振って、微笑んでいる。

だが、僅かに安堵した真理亜が、男を刺激しないよう身体を捻ろうと腹筋に力を入れた瞬間―――。

「ッ!!」

男は素早く立ち上がり、尻尾で彼女の足を開かせると、その間に身体をねじ込んだ。

両手で真理亜の両肩を地に押し付けて、その肢体に体ごと覆いかぶさる。

真理亜を上から縫い止めて、その顔を覗き込めば、男は満足そうに微笑んだ。



「やっぱり。獲物は、少しくらい抵抗しないと、面白くねーよな」


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