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一夜の愛、人との愛
第17章 感知
喋る男の口元に、ギラリと光る犬歯が覗いた。
その牙は人間のものより太く尖って見える。
赤い舌が、狙いを定める蛇のようにうねった。

「……っひ、……!」

男が唇を胸の頂に降ろすと、先端を咥えて前歯に挟む。
犬歯が突起にかかるだけで、針でさすような痛みが走った。
敏感な箇所に与えられた刺激に、真理亜が青ざめる。

「や、め……」
「固くなんなって言ってんだろ? 牙が通りにくくなんだよ」

犬歯の先を擦りつけたまま、男の顔が胸の谷間に移動した。
真理亜の指を覆っていた掌が外れ、左の胸に乗せられる。
心臓に爪を立てようとしている。
肉球から飛び出た黒く太い爪が、真理亜の白い胸を引き剥がす勢いで根本に食い込んだ。

「お願…ッ…」

声だけじゃない。
身体まで震え出し、真理亜の首に緊張で細い筋が浮かんだ。
落ち着かない指が、空中をさまよって、男の二の腕にかかった。

「お前は獣の本能を分かってない」
「え…」
「獲物が暴れほど、俺達は力を込める」

言葉を裏付けるように、胸を掴む爪が力を増した。

「いった…ッ!」
「苦しむ顔を見れば、喰らいつきたくなる」
「ッア……!」

首筋に、男の顔が埋まり、同時に左の胸に鋭い痛みが走った。
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