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一夜の愛、人との愛
第17章 感知
雪豹の動きも素早いが、俊敏性では狼の方が上だ。
猛攻を仕掛ける雪豹に対し、狼は交わすことだけを考えているのか、あと一歩のところで爪が空を切っている。だが、その瞳は雪豹の首筋に焦点を合わせていて、決して勝ち目のない戦いに身を投じているわけで無いことが見て取れた。
気を抜けば喉笛に牙が食い込む。
互いに、肉食獣であるからこそ、その緊張感は凄まじかった。
懐に入り込み、ジャケットの裾に噛み付き引き倒そうとした狼に、尻尾で応戦した雪豹は、一旦距離を取りながら、狼の様子を探る。
(音はしたが、匂いはしなかった)
獣特有の匂いが、この狼からは感じられない。
ごく僅かに感じる匂いは、他の獣のような鼻につく刺激臭とは異なっている。
人間の匂いに鼻がやられていたせいかと思ったが、爪の届く距離でも、この狼からは獣臭を感じない。
(妙だ)
その一瞬の迷いが、隙になった。
気づいた時には眼前に狼の牙が迫り、雪豹は本能で右手を空に掲げていた。
手応えはあったが、身体を捻った自分もバランスを崩し、地面に転がっていた。
「……ッ!」
顔を上げた瞬間、雪豹は息を飲んだ。
森の生き物が頭を垂れる匂いが、辺りを支配していた。
ヒエラルキーの最上位にいる男の登場に、雪豹は爪を収めて大地に胡座をかき、俯いた。
金髪の男は、血のような赤いコートを身にまとい、雪豹と狼の間に立っていた。
隠すことの無い胸元からは厚く逞しい胸筋が覗き、不遜な顔には自信と誇りが漲っている。
雪豹と同じように肘から下が獣の腕に取って代わっているが、それは左腕だけだ。
その場に悠然と立つ姿は、威厳さえ感じられ、圧迫感があった。
真理亜は地面に倒れた狼の元へ近寄ると、腹の傷に片手を当てると、そっと狼の頭を撫でた。
痛みがきついのか、狼の息は荒い。
だが、真理亜の手を拒むことはせず、ひたすら、金髪の男と雪豹を睨みつけている。
「大丈夫?」
小さく囁いた真理亜の声に、反応したのは金髪の男だった。