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一夜の愛、人との愛
第17章 感知
金髪の男が指差した先は、腹に傷を追ってうずくまっている黒い狼―――。

「え…」

にわかには信じられない指摘に、息を飲む真理亜から視線を外すと、男は振り返って雪豹を見下ろす。

「フロー。取ってこい」
「……はい」

金髪の男が視線で示した方向へ、雪豹が素早く姿を消す。

フローの白い尻尾が森の奥へ消えるのを見れば、男がコートの裾を翻して真理亜と黒い狼に身体を向け直した。

狼は未だに、低く唸り声を上げ、鼻の頭に皺を寄せながら時折牙を向いている。

「半人前の天使は、存在そのものが不安定だ」

告げながら男は狼の目の前に腰を落とすと、真理亜と視線の高さを合わせる。

「だから皆、動物に姿を変える事が出来る」
「動物に…」
「そうだ。羽が生え変わるまでの特権、って奴だな」

傷を見せろ、と低く命じると、男は狼の腹に手を伸ばす。
途端、狼が凄い剣幕で、その右手に噛み付こうと身体を捩った。
獰猛な勢いに声を上げかけた真理亜が、すかさず悲鳴を飲み込む。

「あ…」
「落ち着け。俺は、お前の目的の男だ」

金髪の間から鋭い眼光を覗かせながら、動じない男は左の獣の手で狼の喉笛を地面に押し付けると、その身体を右肘で押さえつけながら拘束した。
動きが早すぎて、真理亜が言葉を失ったのも当然だった。
男の様子は冷静そのもので、余裕さえ感じられる。
赤子の手をひねる要領で、狼を地面に捩じ伏せると、低い声で「いいから、聞け」と促していた。
だが、言葉が通じていないのか、興奮のせいか、狼は男の命令を聞こうとしない。
それどころか、より一層暴れだし、止まりかけていた腹部の傷から、新たな赤い血が滲みだす。

「だめ…!」

緑の大地が赤黒く染まっていく様子を見て、思わず真理亜が手を伸ばし、狼の頭を抱きかかえた。
男の左手から大きな頭を庇うように抱きしめ、膝の上に乗せるも、その獣は、荒々しい呼吸を何度も繰り返し、大きく開いた瞳孔をギラギラ滾らせている。
怪我の痛みもあって、パニックに陥っているらしい。
力任せに首を振ろうとする度に、真理亜はギュッとしがみつくようにして、その動きを止めようとする。

もがけば、出血が広がってしまう。
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