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一夜の愛、人との愛
第17章 感知
じっと真理亜の様子を見ていた男が、不意に口を開いた。
「呼びかけてやれ」
「……え?」
「そいつは、お前を助けに来たんだろ? お前が呼びかければ、安定する」
地面に尻を突き、コートの裾を広げると、男は胡座をかいて腕を組んだ。
傍観する、その姿勢に、真理亜が迷いを隠さずに、腕の中の獣を見つめる。
(本当に、これが―――)
ザレム、なのだろうか。
粗野で乱暴な性格ではあっても、どこかで人間に対する気遣いをもった天使だと考えていただけに、目の前の獰猛で野蛮な獣が、あの男だとは思えない。
しかも、こんな風に自我を失って、狂ったように唸る姿を人前に晒すなど、プライドの高そうな彼からは、想像できなかった。
「ロック」
が、その時、聞き覚えのある声が響くと、木々の間から、雪豹が黒いローブを手にして姿を現した。
そのローブは、確かに、ザレムの着ていた服―――。
まさか、と真理亜が腕の中に視線を戻そうとした時だった。
「あッ……」
器用に身体を捻った狼は、真理亜の前に四つ脚で立ち上がると、一瞬、身体をグラリと揺らしながらも、しっかりと地に足を踏ん張らせ、雪豹を睨み上げた。
胸元を逸らしながら上体を低く構え、毛を逆立てるせいで、傷口から、ポトポト…と血が垂れていく。
反射的に伸ばした真理亜の手は、赤く濡れて光っていた。
その血の色が、地下牢で見たザレムの血の記憶に重なった。
「ザレム!!」
思わず声を上げた真理亜は、夢中で狼の身体を抱きしめた。
「呼びかけてやれ」
「……え?」
「そいつは、お前を助けに来たんだろ? お前が呼びかければ、安定する」
地面に尻を突き、コートの裾を広げると、男は胡座をかいて腕を組んだ。
傍観する、その姿勢に、真理亜が迷いを隠さずに、腕の中の獣を見つめる。
(本当に、これが―――)
ザレム、なのだろうか。
粗野で乱暴な性格ではあっても、どこかで人間に対する気遣いをもった天使だと考えていただけに、目の前の獰猛で野蛮な獣が、あの男だとは思えない。
しかも、こんな風に自我を失って、狂ったように唸る姿を人前に晒すなど、プライドの高そうな彼からは、想像できなかった。
「ロック」
が、その時、聞き覚えのある声が響くと、木々の間から、雪豹が黒いローブを手にして姿を現した。
そのローブは、確かに、ザレムの着ていた服―――。
まさか、と真理亜が腕の中に視線を戻そうとした時だった。
「あッ……」
器用に身体を捻った狼は、真理亜の前に四つ脚で立ち上がると、一瞬、身体をグラリと揺らしながらも、しっかりと地に足を踏ん張らせ、雪豹を睨み上げた。
胸元を逸らしながら上体を低く構え、毛を逆立てるせいで、傷口から、ポトポト…と血が垂れていく。
反射的に伸ばした真理亜の手は、赤く濡れて光っていた。
その血の色が、地下牢で見たザレムの血の記憶に重なった。
「ザレム!!」
思わず声を上げた真理亜は、夢中で狼の身体を抱きしめた。