この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
一夜の愛、人との愛
第17章 感知
* * *
美しい青の空の下、エデンの白い館の一室で、弟の申し出に眉を潜めたクレイルは、腕を組みソファに腰を下ろした。
開け放たれたテラスの傍で、風に靡く白いレースの薄膜が揺れている。
涼しげな気配の、その布の動きとは対照的に、クレイルの表情は曇っていた。
彼は溜息をつき、弟が口にした言葉を脳裏で反芻する。
「本気で、言っているのか?」
「本気です」
立ったまま自分を見下ろす相手に顔を向ければ、覚悟を決めた表情で見返される。
こうなると兄としては苦笑を漏らすほか無い。
長く過ごしてきた肉親だからこそ、一度決めたら、頑として判断を曲げようとしない彼の性格は、良く分かっていた。
以前から「外して構わない」と告げているのに、未だに律儀につけている白い手袋を眺めながら、自分とよく似た細長い指で、彼がどんな未来を掴もうとしているのか、思いを馳せる。
「分かった。俺から神格長様に話す」
「……ありがとう、兄さん」
幾らか申し訳無さそうに、けれど安堵の色も匂わせながら微笑むコーラルに、向かいに座れと、相対するソファを指差しながら、兄は軽く肩を竦めた。
「知らないうちに、お前も成長するんだな」
「……」
コーラルは、その意外な言葉に目を見開いた。
常に自分の前を歩き、兄として、肉親として自分を見守ってくれた相手ではあったが、こんな風に“成長した”と言葉をかけられたことは無かった。
不思議と嬉しい思いを感じると共に、どこか切ないような奇妙な感覚が胸に生まれる。