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一夜の愛、人との愛
第17章 感知
「……」

困って顔を上げれば、向かいに胡座を欠いていた男が、ゆるく笑みを浮かべて真理亜の様子を眺めていた。
目があった瞬間、両方の眉を上げた、その男は、獅子のたてがみを思わせる荒っぽく刈り込まれた金髪を揺らしながら、顎をしゃくってザレムを見るように促してくる。
真理亜の表情は曇ったが、それを押し切るように、男は顔から笑みを消すと、真剣な表情のまま視線をグイと下げた。

釣られて、真理亜の視線も少し下がった。

「あ……」

声を出してしまったのは、ザレムが上体を起こそうとしたからだ。
素早く覚醒した黒い天使は、俯きがちに上体をひねると両手で地面を押しながら上半身を持ち上げる。
左手で半身を支えて、右手を傷口に添えた、その姿に、考えるより先に真理亜の腕が伸びた。

「ザレム」

左手を天使の脇腹に入れて支えると、右手を肩に添える。

「血が…」
「黙れ。分かってる」

冷たい声に、真理亜の指が震えた。
腫れ物に触るように、ザレムの肩から手を離す彼女に、金髪の男が片眉を持ち上げる。
それでも、ザレムの身体を支えようと左手を、そっと脇の下に添えたままの真理亜に、状況を静観していた男が立ち上がると、背後の雪豹に何か耳打ちした。
そのまま、黒いローブを受け取ると、ザレムの剥き出しの肌に放り投げる。

「着ろ。黒い天使」
「……本当に、お前が」
「森の主、だ。俺が」

尊大な口ぶりで腰を落としたままのザレムと真理亜を見下ろすと、コートの裾を翻して、男は、霧の晴れた森を歩き出す。
振り返りもせずに、無言のまま草を踏みしめていく姿に、ザレムの顔が忌々しげに歪んだ。

「行け、女」
「え…」
「俺は、お前の匂いで追いかけられる。……先に、行け」
「だって、血が」
「うるさい。わめくな。俺が行けと言ったら、行け」
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