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一夜の愛、人との愛
第18章 刻印
謎掛けめいた言葉を告げて、男は崖の縁まで歩くと、そこで足を止めた。

(どこまで、出来るか―――)

男の言葉を胸の内で繰り返しながら、真理亜も静かに足を進め、男の傍に立つ。
地上50メートルほどの崖は、決して派手な高さでは無いが、それでも端に立つのは恐い。
ギリギリに立つ男から1歩後ろの位置に止まった真理亜に、男はチラリと目を向けた。

「例えば、だ。ここから飛び降りろ、と言われたら、どうする?」
「……え」
「飛び降りた奴にのみ、”イザヤの実”に続く道が見えるとしたら」

言葉を区切って、男は身体を真理亜に向けた。

「お前は、飛び降りられるか?」
「……」

緩く生温かい風が、真理亜の頬を撫でて肩までの髪を揺らした。
笑みの一つも浮かべていない男の表情に、真理亜が表情を強ばらせ足元の崖に視線を向ける。
崖の際(きわ)から見える下の景色は遠くかすんでいて、見ていると脚が震えそうになる。

気付けば、服の胸元を握ったままの右手が、じっとり汗ばんでいた。

「私…」

真剣な表情で覚悟を決めようとした真理亜の肩に、ポンと男の手が置かれる

「考えすぎるな。”例えば”の話だ」
「?」
「安心しろ。飛び降りろ、とは言わない」

顔を上げれば、男は背後の雲の切れ目から差し込む光を背にして、逆光の中、真理亜に微笑んでいた。
人間と同じ右の手が、人差し指を立てた形になると、傍の石を指差す。

「座れ」
「あ…、はい」

真理亜が丸い石に腰かけると、男も対面にある大きな岩に腰を下ろした。
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