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一夜の愛、人との愛
第18章 刻印
「まずは、謝らないといけないな。フローが無礼な真似をした。すまない」
"フロー”とは、先程まで真理亜を組み敷いて喉元に噛み付こうとしていた黒髪の男のことだ。この男が名前を呼んでいたから間違いない。
そういえば、この男が現れた時、フローに服を剥ぎ取られていた真理亜は、一糸まとわぬ格好で、ただザレムを庇うことしか出来なかった。
自分の身体を見られていたことに今更気づき、心臓の鼓動が急に大きく感じられてくる。
「いえ…」
小さく答えて俯いた真理亜は、視界に入った自分の右手に、思い出したように服を離しながら僅かに首を振った。
結局、あの男が何だったのか、どうして自分を攫ったのかも分からなかった。
そのまま言葉を失う真理亜に、男が静かに瞳を瞬かせる。
「あいつの爪痕は、痛むか?」
「―――」
穏やかな声で尋ねられて、真理亜が顔を上げる。
男の視線は真理亜の顔に向けられていたが、その言葉が指しているのが左の胸の傷なのは明らかだった。
僅かに頬が熱くなった。
それでも、そこまで知られているのに、隠すのも無駄だと、真理亜は一つ長い息を吐いた。
じたばたしても始まらないことは、この森に来た時に分かっていたはずだ。
「痛み、ます」
男の顔を見据えたまま答えると、男は表情を曇らせて、再び頭を下げた。
「悪かった。"イザヤの実"を手に入れに来た者は、侵入者ではなく客人だから、傷つけないのが森の掟なんだが、久しぶりの人間の匂いに、あいつも頭に血が上ったらしい」
罰は与える、と続けた男は、ふと顔を挙げると、自分達が辿ってきた道へ視線を向けた。
金髪の間から覗く、角の丸い三角形の耳がピクッと動いている。
真理亜の耳には何の音も聞こえないが、この男には、何かが聞こえているのかもしれない。
"フロー”とは、先程まで真理亜を組み敷いて喉元に噛み付こうとしていた黒髪の男のことだ。この男が名前を呼んでいたから間違いない。
そういえば、この男が現れた時、フローに服を剥ぎ取られていた真理亜は、一糸まとわぬ格好で、ただザレムを庇うことしか出来なかった。
自分の身体を見られていたことに今更気づき、心臓の鼓動が急に大きく感じられてくる。
「いえ…」
小さく答えて俯いた真理亜は、視界に入った自分の右手に、思い出したように服を離しながら僅かに首を振った。
結局、あの男が何だったのか、どうして自分を攫ったのかも分からなかった。
そのまま言葉を失う真理亜に、男が静かに瞳を瞬かせる。
「あいつの爪痕は、痛むか?」
「―――」
穏やかな声で尋ねられて、真理亜が顔を上げる。
男の視線は真理亜の顔に向けられていたが、その言葉が指しているのが左の胸の傷なのは明らかだった。
僅かに頬が熱くなった。
それでも、そこまで知られているのに、隠すのも無駄だと、真理亜は一つ長い息を吐いた。
じたばたしても始まらないことは、この森に来た時に分かっていたはずだ。
「痛み、ます」
男の顔を見据えたまま答えると、男は表情を曇らせて、再び頭を下げた。
「悪かった。"イザヤの実"を手に入れに来た者は、侵入者ではなく客人だから、傷つけないのが森の掟なんだが、久しぶりの人間の匂いに、あいつも頭に血が上ったらしい」
罰は与える、と続けた男は、ふと顔を挙げると、自分達が辿ってきた道へ視線を向けた。
金髪の間から覗く、角の丸い三角形の耳がピクッと動いている。
真理亜の耳には何の音も聞こえないが、この男には、何かが聞こえているのかもしれない。